
著者プロフィール 本記事は、焼肉・ホルモン料理の専門知識を持つフードライターが執筆しました。ホルモンの部位・調理法・栄養について10年以上取材・執筆を重ねてきた経験をもとに、信頼性の高い情報をお届けします。
マルチョウって何?「小腸」と「ホルモン」の基礎を一気に理解しよう
焼肉屋でメニューを眺めていて、「マルチョウ」という文字を目にしたことはありませんか?名前の字面から「どんな部位か正確にはわからない」「なんとなく頼みそびれている」という方は多いはず。
結論から言うと、マルチョウは牛の小腸を加工したホルモンです。
漢字で書くと「丸腸」。ひと口大にカットされたコロンとした丸い形が、そのまま名前の由来になっています。牛の小腸は成牛で全長約40メートルにもなる非常に長い管状の臓器で、マルチョウはその全体の約3分の2を占め、牛1頭から約10キログラム取れます。
ただし、「牛の小腸=マルチョウ」と単純に言い切れないのがポイントです。小腸の加工方法によって、呼び名が変わります。筒状のまま外側を内側で包むようにくるんとひっくり返したものが「マルチョウ」で、切り開いて裂いたものは「コプチャン(関西ではヒモ・ホソ)」と呼ばれます。同じ小腸から採れても、加工の仕方で全くちがう食べ物として焼肉屋に並ぶわけです。
別名が多いのもマルチョウの特徴で、韓国語の「コプチャン」をはじめ、「トロテッチャン」「コテッチャン」「シロ」「ホソ」など地域や店舗によって呼び方は様々です。
マルチョウの「逆転加工」の秘密:なぜひっくり返すのか?
マルチョウの最大の特徴は、普通の小腸とちがいわざわざ腸を裏返して作るという手間のかかる工程にあります。
牛の小腸は、外側に脂がたっぷりついています。この小腸をそのまま筒状に切り分けると、外側の脂が外に露出したままです。しかしマルチョウは、腸の裏と表をひっくり返すことで、外側についていた脂を内側に閉じ込めてしまいます。腸詰めのように脂を包み込むことで、焼いたときに脂が外に逃げにくくなり、口に入れた瞬間に脂の旨みがジュワッとあふれ出る、あの独特の食感が生まれるのです。
この裏返し作業は機械化が難しく、細い竹棒などを使った手作業で行われることが多いといわれています。同じ小腸を使いながらマルチョウの方がやや値段が高い理由の一つが、この職人的な手間にあります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: マルチョウを選ぶときは、パックのなかで脂の白さが均一で、表面がしっとりしているものを選びましょう。黄色みがかった脂や表面が乾燥しているものは鮮度が落ちているサインです。
なぜなら、マルチョウは脂の品質がそのまま味に直結する部位だからです。鮮度の高いマルチョウは臭みがほとんどなく、初めてホルモンを食べる方でも抵抗なく楽しめます。一方で鮮度が落ちると独特の臭みが強くなり、食べにくさを感じる原因になります。
マルチョウ vs シマチョウ:何がちがう?迷ったときの比較ガイド
ホルモンメニューでよく並んで登場するのが「マルチョウ」と「シマチョウ」。似た名前でも、実は全くちがう部位です。
| 項目 | マルチョウ(丸腸) | シマチョウ(縞腸) |
|---|---|---|
| 部位 | 牛の小腸 | 牛の大腸 |
| 外見 | 白くコロンと丸い筒状 | 縞模様、平たい形状 |
| 脂の量 | 多い(こってり) | 少なめ(さっぱり) |
| 食感 | プリプリ・クニュクニュ | 弾力が強い・噛みごたえあり |
| カロリー(100g) | 約287kcal | 約162kcal |
| 1頭からの取れる量 | 約10kg | 約1〜1.5kg |
| 希少性 | 比較的手に入りやすい | 希少部位 |
| おすすめな人 | 脂の旨みとジューシーさが好きな方 | 弾力のある噛みごたえが好きな方 |
シマチョウは、処理が難しく手間のかかる部位として知られており、「シマチョウがおいしい焼肉店は全体的においしい」とグルメ通の間で言われることがあるほどです。一方マルチョウは手頃な価格で入手しやすく、ホルモン入門として最適な部位といえます。
ちなみに、牛の直腸である「テッポウ(鉄砲)」は3種のなかで最も脂が少なく低カロリー(100gあたり約110kcal)。直腸を開いた形が鉄砲に似ているという、遊び心のあるネーミングです。
マルチョウの焼き方:外カリ・中ジュワを実現する3つのコツ

マルチョウは脂が多いため、焼き方を間違えると焦げたり、逆に脂が飛んで旨みが逃げたりします。おいしく仕上げるコツを3点に絞ってお伝えします。
① 弱火でじっくりスタート
最初から強火で焼くのは禁物です。弱火で転がしながら、内側の脂にゆっくり火を通します。脂が溶け始める前に強火にすると外だけ焦げて中が生焼けになってしまいます。
② コロコロ転がして均一に火を入れる
筒状のマルチョウは、一点に置きっぱなしにせずトングでコロコロと転がし続けることが大切です。脂が全体に行き渡り、均一な焼き色をつけられます。
③ 脂がリボン状になったら食べごろのサイン
焼いていると、外側の腸壁がくるりと収縮し始め、中から脂がにじみ出てリボン状に見えてきます。この状態が食べごろです。外側はカリッと香ばしく、内側はとろりとジューシーな、マルチョウ最大の魅力を味わえます。
タレのおすすめは、濃厚な脂の甘みに負けない味噌ダレや醤油ダレです。さらに七味唐辛子や山椒を加えると、おつまみとしての完成度が上がります。塩こしょうでシンプルに食べるのも、マルチョウ本来の旨みが際立ちます。
マルチョウの意外な栄養価:コラーゲン・ビタミンB12の宝庫
「ホルモンは体によくないのでは?」という先入観を持つ方も多いかもしれませんが、マルチョウには注目すべき栄養素が含まれています。
コラーゲンが豊富
マルチョウのプリプリした食感の正体はコラーゲンです。皮膚・毛髪・骨などに欠かせないタンパク質の一種で、美肌効果を期待して女性ファンも多い部位です。もつ鍋など煮込み料理にすると、コラーゲンがスープに溶け出し、より効率的に摂取できます。ビタミンCが豊富なキャベツやピーマンと一緒に食べることで、コラーゲンの生成・保持をサポートできます。
ビタミンB12が豊富
牛の小腸100グラムには、ビタミンB12が約21μg含まれています。ビタミンB12は赤血球の生成に欠かせない栄養素で、不足すると貧血の原因になります。牛小腸100グラムを食べれば、一食分で必要なビタミンB12をほぼ補える計算です。
主な栄養成分(100gあたり)
| 栄養素 | 含有量 |
|---|---|
| エネルギー | 287kcal |
| タンパク質 | 9.9g |
| 脂質 | 26.1g |
| 炭水化物 | 0g |
| ビタミンB12 | 約21μg |
一方で、脂質が多くカロリーが高いこと、そしてコレステロールが牛レバー並みに高い点には注意が必要です。食べすぎは控えめにしながら、適量を楽しむのがおすすめです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: コラーゲンの効果を最大限に得たいなら、焼肉よりもつ鍋など「煮込み料理」として食べる方法を選びましょう。
なぜなら、コラーゲンはお湯に溶け出す性質があるため、スープに溶け出た栄養ごと摂取できる煮込み料理の方が吸収効率が高いからです。焼肉で楽しんだ後の〆にもつ鍋スープを飲み干す、という食べ方も理にかなっています。
マルチョウのおすすめ料理:焼肉だけじゃない活用レシピ
マルチョウは焼肉だけでなく、様々な料理に活用できます。
もつ鍋(定番の鍋料理)
九州発祥のもつ鍋は、マルチョウを主役とした代表的な鍋料理です。にんにく・生姜・醤油や味噌ベースのスープで煮込むことで、コラーゲンがたっぷりのトロトロのスープが完成します。キャベツやニラ、豆腐との組み合わせが定番で、〆の麺やご飯まで美味しく食べられます。
マルチョウの煮込み
赤ワインや醤油ベースで長時間煮込むと、脂の甘みとコクが深まります。脂が苦手な方でも食べやすくなるため、ホルモン初心者への入門メニューとしてもおすすめです。
購入できる場所
品ぞろえが豊富なスーパーや肉専門店に加え、インターネット通販でも購入できます。国産牛のマルチョウは産地・飼育方法によって脂の質や臭みが大きく変わるため、信頼できるショップで選ぶことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. マルチョウは臭みが強いですか?
A. ホルモン全般に臭みのイメージを持つ方も多いですが、マルチョウは比較的クセが少ない部位です。新鮮なものを丁寧に下処理しているものなら、ホルモンが苦手な方でも食べやすいと評判です。購入時は鮮度の高いものを選ぶことが大切です。
Q. マルチョウとコプチャンはちがうものですか?
A. 同じ牛の小腸からできますが、加工方法が異なります。小腸を筒状のままひっくり返したものがマルチョウ、切り開いたものがコプチャン(関西ではヒモ・ホソ)です。ただし、地域や店舗によって同じものを指すケースもあります。
Q. 家庭でマルチョウを焼くときに注意することは?
A. 脂が多いため、煙が出やすい点に注意が必要です。換気扇を必ず回し、一度に大量に焼かないことが重要です。脂が落ちて煙が出続けると、焦げた脂の匂いが室内に残りやすくなります。
Q. マルチョウはスーパーで買えますか?
A. 通常のスーパーでは取り扱いが少ない場合がありますが、品ぞろえが豊富なスーパーや精肉専門店、インターネット通販で入手できます。冷凍品は解凍する際、冷蔵庫でゆっくり半日かけて解凍するのがおすすめです。
Q. もつ鍋に使うときはどのくらいの量が必要?
A. 2〜3人前のもつ鍋なら300〜400グラム程度を目安にするとよいでしょう。マルチョウは煮込むと少し縮みますが、脂が溶け出すため全体にコクのあるスープが広がります。
まとめ:マルチョウは「ホルモンの入り口」にして「焼肉の名脇役」
マルチョウについてまとめると以下のとおりです。
- 部位: 牛の小腸を裏返して加工したホルモン(丸腸)
- 特徴: 噛むと脂がジュワッとあふれる濃厚な甘み、プリプリとした弾力ある食感
- シマチョウとの違い: マルチョウは小腸(脂多め・ジューシー)、シマチョウは大腸(脂少なめ・弾力強め)
- 焼き方のコツ: 弱火でコロコロ転がし、脂がリボン状に出てきたら食べごろ
- 栄養: コラーゲン・ビタミンB12が豊富。カロリーとコレステロールは高めなので食べすぎ注意
- 料理: 焼肉、もつ鍋、煮込みなど幅広く活用できる
ホルモンに慣れていない方にとって、マルチョウはクセが少なく脂の甘みが感じやすい入門部位として最適です。焼肉屋でメニューを眺める機会があれば、ぜひ1人前注文してみてください。弱火でコロコロ転がしながら、外カリ・中ジュワのベストタイミングを探す時間も、焼肉の醍醐味のひとつになるはずです。
参考文献
- 文部科学省「日本食品標準成分表」牛小腸(食品番号:11098)
- 厚生労働省eヘルスネット「エネルギー産生栄養素」
- カロリーSlism 牛ホルモン小腸 栄養成分データ(https://calorie.slism.jp/111098/)
- OZmall「焼肉のプロフェッショナルが教える牛小腸のおいしい焼き方」(取材協力:薩摩 牛の蔵 総料理長 山本成典氏)
- 特選松阪牛やまと「もつ(ホルモン)に含まれるコラーゲンや栄養素の効果・効能」












